ポーの小説や詩が読みたくなる本でした。
ポーとは19世紀に活躍した作家、エドガー・アラン・ポーのことです。
ポーは史上初の推理小説を描いたことで知られています。
ちなみに、江戸川乱歩のペンネームはこの「エドガー・アラン・ポー」から取ったと言われています。
目次
あらすじ
「黒猫」と呼ばれる天才的な美学研究者がいる。
「黒猫」というのは渾名で、
彼のその奇抜な論理の歩みがまるで自由奔放な黒猫のようであることから、学部長が呼び始めたのが最初で、それがしだいに定着していった。
「僕が行うのは美的推理であって、導き出された真相が美的なものでなければその時点で僕の関心は失われる。美的でない解釈が解釈の名に値しないように、美的でない真相もまた真相の名に値しない」
引用:森晶麿『黒猫の遊歩あるいは美学講義』(早川書房)p14
彼は美しい真相を好み、醜い真相を嫌う。
一見不可解に見える出来事も、彼の奇抜な推理によって、紐解かれていく。
見所&感想
メタファーがめっちゃ出てくる
本作では登場人物達の会話の中で、メタファー的思考がよく出てきます。
おそらくメタファーってなんだ?って話だと思うので、頑張って解説します。
メタファーとは一言でいうと、小説や映画などで使われる表現技法のことで、その意味は「"~のようだ"の表現を使わない例えのこと」です。
「まるで○○のようだ」と言われれば、一発で例えだとわかりますが、なかには「○○のようだ」という表現が使われずに例えられていることもあって、そのことを「メタファー」と呼びます。
つまり、別の表現を使うと「直接的ではない例え」とも言えます。
これだけだと分かりにくいので、メタファーの具体例を見ていきます。
美しい女性のことを指して「天使だ」と言われることがありますが、これがずばりメタファーです。
もちろん「天使だ」とはいっても、この場合、言われた女性が神話などに登場する「本物の天使」というわけではありません。
「天使」という言葉を使うことで、女性の美しさを表しているわけです。
つまり、この場合、
天使=女性の美しさ
となって、「天使」という言葉が「女性の美しさ」を表すメタファーとなっています。
これがメタファーです。
他にも映像作品の例でいうと、悲しいシーンの前に「雨が降る」というのがあります。
ドラマやアニメなんかを見ていて、「毎回こういうシーンの時ってなぜか雨降るよな」と思ったことはありませんか?私はよくあります(笑)
この場合は、
雨の日=「気分が落ち込む」イメージ
というのがあり、
このイメージが転じて、悲しいシーンや辛いシーンの時には「雨が降る」となったのだと考えられます。
まあ、色々と説明してきましたが、要するに、メタファーって例えの一種なんだな~という理解で大丈夫です。
本書では、ポーの作品が毎話ごとのモチーフとなっていて、その解釈を巡って、語り手の私と黒猫が議論を交わすシーンがよく出てくるのですが、そこで上で述べたようなメタファー的な思考が多く登場します。
筆者も最初、このメタファーになかなか慣れずに、本作を読みながら、一読では理解できないので同じ文章を何回か読み直すといったことをよくやっていました。
しかし、だんだんと慣れてくると癖になってきて、読み終わる頃には、物語の解釈について書かれた文学書を読んでみたいと思うようになっていました。
以前、同じ作者さんの『偽恋愛小説家シリーズ』の紹介記事を書きましたが、この偽恋愛小説家シリーズでも文学的な解釈が作中に多く登場しました。
しかし、こちらはどちらかというと、気軽に読めるライトな感じでした。
その意味では、本作は少し難しく、より本格的といった感じですね。
文学入門として
先ほど本作は少し難しいと書きました。ただ、文学作品の解釈などの文学的な話題を、筆者のような素人でも楽しみながら知ることができるという点で、本作は非常に有用だと感じます。
大学で学ぶような文学的な話題(黒猫が美学者なので美学の話題も含む)について知りたいけど、まずはどこから手を付けていいかわからないといった方におすすめできる本だと思います。
独特の真相
本作はミステリーで、いわゆる事件が起きて、それを受けて探偵が真相を推理するという形式なのですが、そこで語られる事件の真相というのが、通常の推理小説とは少し趣が異なっています。
本作の物語の構成として、
まず最初に文学作品(本作ではポーの作品)の解釈が繰り広げられ、その後で、それに絡めた精神分析的な推理が展開されるという感じなのです。
精神分析的というのは、人間の精神の内面に焦点を当てた謎解きといったら伝わりますでしょうか。
通常ミステリーといえば、殺人に使われたコインに仕掛けがあるなどの物理的なトリックだったり、あるいは文章自体に仕掛けがあったりということがありますが、本作はそうではなく、人間の心の内側の動きが事件の鍵を握っています。
こういった要素が、物語を少し難解にしている部分もありますが、それが本作の魅力でもあり、面白さでもあります。
おわりに
本作の作者である森晶麿さんに筆者は現在、絶賛どハマリ中です。今回の作品も面白かったです。