"なぜか目立たない人、というのがいる。"

という書き出しに惹かれて、読むことを決めた本。

あらすじ

内容は一言でいうと、北海道の開拓時代を描いた歴史もの。

幕末から大正時代までの北海道の歴史を、5人の偉人たちのそれぞれの人生を通して知ることができる。5人の偉人たちとは、島義勇(しま よしたけ), 内村鑑三, バチラー八重子, 有島武郎(たけお), 岡崎文吉の5人。

筆者は、読む前と読んだ後では、北海道に対する解像度が段違いに上がった。旅行に行く前に読んでおくと、北海道がより楽しめるのは間違いない。

面白かった点

少しマイナーだけど北海道史上重要な人物の人生を学べる

本作を読んだおかげで、初めて知った人物が3人もいてとても勉強になった。

その3人とは、島義勇, バチラー八重子, 岡崎文吉の3人。

本作『札幌誕生』の良い点は、まさに、それぞれの人物の物心ついた頃から晩年までの人生を、小説を通じて追体験できることにあると思う。

全編は5話あって、1話ごとに、偉人達1人ずつにスポットを当てて物語が展開していく。読み終わるたびに、「ああ、まさに人生だな…」と1人の人間の人生を感じた。
苦悩があって、葛藤があって、紆余曲折があって…という人生の泥臭さみたいなものをすごい感じて、人生というものについて考えさせられた。

もちろん、歴史小説だけあって、物語に没入しながら自然と歴史の知識も身につくのも良い。

しっかりと小説として面白い

1人の人物の人生をできるだけ忠実になぞっていくだけだと、それ、つまらないのでは?と思われるかもしれない。

しかし、そこは著者の腕の見せどころ。

本作はしっかりと小説として面白く、しかも北海道の歴史について門外漢な筆者でさえも最後まで楽しむことができた。

その時代を生きた人間の人生がイキイキと活写されており、まさに、その時代にタイムスリップしたかのようなというと少し大げさだが、時代の空気感をたっぷりと堪能することができた。まさに、これこそが歴史小説の醍醐味だなと思う。

興味を持った人物

本作の中で特に興味を惹かれた人物は2人いた。

1人目は、バチラー八重子。

八重子自身、アイヌの出身で、『若きウタリに』という詩集を生涯で1冊出している。

ウタリとは、アイヌの言葉で「同胞」という意味。

『若きウタリに』ではアイヌ語がふんだんに使われており、そこには同じアイヌの民への呼びかけや、励まし、民族としての誇りがイキイキとつづられているそうだ。

筆者自身、漫画『ゴールデンカムイ』の影響を多少受けて、アイヌの文化やアイヌ語に興味があったこともあり、読んでみたいと思った。

また、作中で描かれる、言語学者として著名な金田一京助と八重子の出会いのシーンもとても良い。金田一京助は、詩集『若きウタリに』にてアイヌ語の日本語訳を担当している。

もう一人、興味を持った人物は、岡崎文吉の章にて登場する、当時、新聞記者だった、渋江悠三郎(ゆうざぶろう)だ。

彼は、夏でもないのに麦わら帽子をいつもかぶっている特徴的な人物として描かれており、物語の良いスパイスとなってくれている。彼の登場により物語が一気に面白くなったと感じた。
それくらいキャラとしても気に入った人物だ。

作中では岡崎文吉の良き話し相手の友人としてしかほとんど描かれていないが、
唯一、渋江はセリフにて、物書きになりたいと語り、

「筆一本で政治家どもの腐敗を暴き、華族どもの偽善を衝き、資本家どもの非道を白日の下にさらす!」

引用: 門井慶喜『札幌誕生』(河出書房新社) p555

と意気込みを語っているシーンがある。

おそらく後世に名を残す書き手になったのではないかと推察される。彼の書いた本を読んでみたいと思った。

おわりに

歴史小説を読むのは本作がはじめてだった。歴史小説ってとても良いと思った。楽しみながら歴史の知識が身につくし、そしてなによりその時代の空気感を登場人物たちの描写をとおして感じられるのが良い。

著者の書いた別の作品も読んでみたいし、他の歴史小説も読んでみたいと思った。

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