坂木司『青空の卵』のネタバレ感想とあらすじを書いていく。

みじかめのあらすじ

引きこもりでコンピュータープログラマーの鳥井真一。日常に潜む謎も、彼の持ち前の鋭い観察眼にかかれば、たちどころに解けてしまうのであった。

詳しいあらすじ

「ひきこもり探偵シリーズ」の3部作のうち、第1作目である本作には、5つの短編が収録されている。

どれも短編ではあるが、物語としてはつながっている「連作短篇集」という形式をとっている。

順番にあらすじを紹介していこう。

その1「夏の終わりの三重奏」

外出嫌いで、めったに外に出ようとしない鳥井真一。

その友人である坂木司(さかきつかさ)は、そんな彼を、なじみのスーパーへと買い物に連れ出す。

季節は夏。蟬が鳴き、汗ばむ季節である。

なじみのスーパーに着くと、僕らはまっすぐに野菜売り場へと向かった。一人暮らしの男にとって、もっともとりにくい栄養素はやはり食物繊維なのである。

引用:坂木司『青空の卵』(創元推理文庫) p19

鳥井と坂木は、トマト缶を買うために缶詰コーナーを目指す。

しかし、その缶詰コーナーの通路は、周辺にセール商品が大量に積みあげられており狭かった。

そこへ、向かい側から一人の女性が歩いてきて、商品につまずいた。
缶詰の山が崩れ落ちる。女性を救うべく、坂木はとっさに、その女性の手をつかみ引き寄せた。

その女性は、間一髪で、缶詰の山の下敷きになるのを防がれた。

彼女はかなりの美人で、名前は巣田香織(すだかおり)といった。

そんなことがあってから、1週間以上過ぎた頃、坂木と鳥井のもとへ、警察が訪ねてくる。

なんでも、最近このあたりで、ストーカー事件が相次いでいるという。

ただ、普通のストーカー事件とは違う点がひとつある。それは、その被害者が男であるということだった。 

さらには、通り魔的犯行まで起こっており、自転車に乗ったレインコート姿の女から、股間をショルダーバッグで、おみまいされてるらしい。

女は、股間に一撃を加えたあと、以下のような捨て台詞を言って、去っていったという。

「『あなたのそこ、次には切り落としてあたしの物にするから、忘れないでね』──だってさ」

引用:坂木司『青空の卵』(創元推理文庫) p32

鳥井の名推理が冴え渡る。

その2「秋の足音」

坂木は、満員電車から駅に降り立った。

1日の仕事が終わり、帰宅する途中である。

そこで、目の不自由なハンサムな青年と出会う。

彼は塚田基(つかだもとい)と名乗った。

それから、坂木は駅でその青年をよく見かけるようになっていた。

そんなある日、坂木は塚田青年から、相談を受ける。

話を聞くと、なんでも、1週間ほど前から、塚田青年の後をつけてくる不審な人物がいるという。

一見すると、ストーカー事件か何かだろうかと思うかもしれないが、この後、予想だにしない事実が、鳥井の推理によって明らかになる。

その3「冬の贈り物」

正月三が日が過ぎたある日、坂木のもとへ一本の電話がかかってきた。

相手は、知り合いの歌舞伎役者の安藤さんで、内容は「こんど歌舞伎の舞台に出るので、鳥井と二人でぜひ見に来てほしい」というものだった。

坂木は、鳥井を誘い出し、歌舞伎座へ出かける。

安藤さんの舞台が終わり、楽屋での出来事。

安藤さんが言うには、

「最近、おかしなプレゼントを下さる方がいるんですよ」

「おかしなプレゼント? それってなんかやばい系のやつ?」

これだけきれいな役者さんだし、おかしなファンがついてしまっても不思議はないな、と僕は思った。けれど彼女は、そうではないと言う。

引用:坂木司『青空の卵』(創元推理文庫) p174〜175

最近、安藤さん宛におかしなプレゼントが届いたという。

それはなんと「亀のはく製」だった。

しかし、このはく製の謎は、翌日プレゼントの贈り主から手紙が届いたことで、事なきを得た─。

かに思われた。

亀のはく製の後も、続々とおかしな物が安藤さんのもとへ届いているという。

いったい贈り主の目的とは何なのか、そして贈り主の正体とは──。

その4「春の子供」

いつも降りる駅で、坂木は一人の子供と出会う。

その子供の年齢は、見た感じではおそらく7歳から10歳くらいに見えた。

その子供は自分を「まりお」と名乗った。

その後、わけあって坂木達はまりおくんを鳥井の家で預かることになる。

どうやらまりおくんは「パパ」の帰りを待っているが、家になかなか帰ってこないため困っているらしかった。

まりおくんは、言葉数は少ないけれど、手のかからない子供で、家の中では静かにお絵かきをして過ごしていた。

しかし、お絵かきをしているまりおくんを見て、坂木はぎょっとした。

まりおくんの描いていた絵は、「首から上が真っ赤に塗りつぶされた男」だったのだ。

鳥井は言う。

「なんか、ひっかかるんだよな、あいつの言動。ちょっと確信犯的で。多分、まりおは普通以上に知能があって、それであえて黙ってるって気がするんだが」

引用:坂木司『青空の卵』(創元推理文庫) p307

まりおくんの描いていた絵は何を意味するのか─。そして、まりおくんの父親は何をしているのか──。

その5「初夏のひよこ」

安藤さん宛におかしなプレゼントが続々と届く事件から、数ヶ月たったある日。

鳥井のもとへ一通の招待状が届く。

それは、事件で知り合った夫婦からのもので、内容は「家庭料理のお店を開くことになったので、是非いらしてください」とのことだった。

さっそく、鳥井と坂木はその料理屋さんへとおもむく─。

今回の話は事件はおこらず、登場人物たちの日常を描いた「日常回」となっている。

本作の魅力&感想

登場人物たちが温かい

本作『青空の卵』を読んで思ったのが、本当の意味での悪人が出てこないということだ。

ミステリーでは、よく凶悪な殺人犯が登場することがある。

凶悪な殺人犯といっても、作品によってはもとから凶悪な人物だったわけではなく、そうなってしまったのには思わず同情してしまうような深い理由がある場合もあるのだが…。

本作は日常を舞台にしたミステリーであるためか、そういった凶悪な人物が出てこなかったため安心して読むことができた。

ミステリーは好きだけど怖かったり、グロいのはちょっと…。
といった人や、あるいは昔はそういう系のミステリーをよく読んでいたけど、重めの話を読むのには疲れてしまったといった人にもおすすめできる。

いやな人というのも、基本的に出てこないためリラックスして読むことができた。

登場人物たちの会話にクスッとなる時がある

個性豊かな登場人物たちの会話のおもしろさも本作の魅力の一つだ。

とくに、坂木と鳥井の高校時代の同級生で、現在は警察官をやっている滝本孝二(たきもとこうじ)。通称「滝本」というキャラクターが陽気なキャラで面白く、なんどもクスリとさせられた。

滝本の人となりがわかるシーンをいくつか引用してみる。

「いるんだろー? 開けろよ、鳥井ー! 国家公務員さまだぞー!」

「すみません、すみません。滝本先輩! 夜なんですから、もっと声を小さく」

うんざりした顔で、鳥井がドアを開くと、そこには僕たちの友人の滝本孝二とその後輩の小宮くんが立っていた。ちなみに、二人は僕たちが住む町のお巡りさんだ。夜の巡回の途中、腹がへったとか、お茶を飲ませろとか言っては鳥井の部屋に上がっていく。滝本は豪快で明るい男だが、彼なりに気を使って、ひきこもり気味の友人宅をまめに訪れてくれているのだろう。
外見的には、まったくただの欠食児童なのがたまにきずなのだが。

引用:坂木司『青空の卵』(創元推理文庫) p108

上で引用した中の「"彼なりに気を使って、"」という描写からもわかるように、滝本はたんなる陽気なだけではなく、人のよいところがあり、にくめないキャラクターである。

もう一つ引用してみよう。

「ただいまー!」

「おう、おつとめごくろう!」

「何だ、その箱は?」

「お土産だよ。みんなで食べよう!」

子供のかわりに、滝本が歓声を上げた。

引用:坂木司『青空の卵』(創元推理文庫) p273

このシーンでは、小学校低学年くらいの小さな子供も同じ部屋にいたのだが、歓声をあげたのは子供のほうではなく滝本というw

今回引用した中には出てこなかったが、時々、鳥井と滝本が繰り広げる漫才のようなやりとりもおもしろい。

短編同士が、つながっている

本作のもう一つ魅力は、メインの人物である坂木と鳥井の知り合いがどんどん増えていくという点だ。

本作『青空の卵』には、5つの短編が収録されており、それぞれで新しいキャラクターが登場する。

本作は短編集ではあるけれど、物語はつながっている「連作短編集」であるという話は、記事の最初の方ですでに書いた。

通常「連作短編集」であっても、短編の中で一度登場した、新しいキャラクターは再び登場することはないという場合も多いのだが、本作は前回の事件で新しく知り合ったキャラクターがあとの話でふたたび登場する。

そのため、回を追うごとにひきこもりぎみの鳥井とそれを取り巻く人たちとの繋がりがふえていく様子が読者も疑似体験することができて、おもしろい。

前回登場した人物も登場することで、物語の中の世界がどんどん広がっていって、一つの世界観が形成されていく感じが、読者も一緒に追体験でき、小説というフィクションの世界ではあるけど、その世界にリアリティがある感じがした。

自分もこの小説の世界の住人になったような感じがして、なんかいいなと思った。

おわりに


おもしろかったので、本作の続きはもちろん、他にも同じ作者さんの描くシリーズ物があるので読んでいきたいと思う。
そして、気が向いたら紹介記事もまた書こうと思う。
それでは、今回はこのへんで。
ではでは。

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