「電気人間って知ってる?」

この物語は、そんな書き出しから始まる。

電気人間、なんでも巷でまことしやかに語られている「都市伝説」らしい。

都市伝説!?

このワードだけでも、その手の話が好きな人は一気に興味をかきたてられるに違いない。

それでは、どんな物語なのか。簡単にあらすじを紹介していこう。

あらすじ

「電気人間」にはいくつかの、特徴が存在する。

そのうちの一つが「電気で人を綺麗に殺すことができる」というものだ。

ここでいう「綺麗に」とは、「跡が残らずに自然と死んだようにみせかけることができる」という意味だ。
つまり、たとえ「電気人間」なる存在に殺されたとしても、警察に「事件性はない」と判断されるということである。

そしてこの「電気人間」のもう一つの特徴。それは「語ると現れる」というもの。つまり、電気人間の噂をしている人のもとへ電気人間は現れるというのである。

「語ると現れる」そして「人を殺す」。この二つの特性により、電気人間について調べていた人物が次々と不審な死をとげていく─。

一体、電気人間とは何なのか。そもそも実在するのか。。。

以上、ここまでが、簡単なあらすじである。

それでは、次に本作の魅力を感想を交えつつ紹介してみたい。

面白かった点

全体をただようおちゃらけムード

本作は人が死ぬし、物語としてのホラーな仕掛けもあって、たしかにホラーといえばホラーなのだけど、どことな〜く物語全体に良い意味でフザケた雰囲気がただよっているのが好きだ。

あえてジャンル付けするなら、ギャグ×ホラーといったところだろうか。

そのギャグ調の本編は、p140から始まる。

その出だしはこうだ。

「電気人間をやっつけろ!」

髭面の編集長はそう叫んで握り拳を突き上げる。

引用:詠坂雄二『電気人間の虞』(光文社文庫) p140

まるでインターネットメディア「オモコロ」の某編集長を彷彿とさせるようなノリである。

ホラー小説としての仕掛けにゾクリとした

ただフザケてばかりでもなく、ちゃんとホラー小説として読者を怖がらせるところは、しっかりと怖がらせるという、その絶妙なバランス感覚は作者特有で思わずクセになってしまう。作者としてはこの呼称を歓迎するかはわからないが、まさに「詠坂節」といっても差し支えないと思う。

ホラーに話を戻すが、特に某ページの仕掛けは、「ゾクリ」とさせられた。
あの感覚が出せるのは、やはり文字媒体ならではの強みだと思う。

メタネタに不覚にもワロタ

本作の作者であるはずの、詠坂雄二が作中に登場人物としてぬるっと登場したときは、思わず笑ってしまった。

以下はお気に入りのやり取り。

「どうせ暇してんだろ。仕事だ。出てこい」 

「ちょっと今俺、働きたい気分じゃないんで……」

引用:詠坂雄二『電気人間の虞』(光文社文庫) p152〜153

あと本作の帯を書いていた綾辻行人までもネタとして登場するのもおもろい。

以下はそのやり取り。

「お前ミステリ書きだろ!」

「綾辻行人の推薦文がもらえるようなね」

「知ってる。自慢そうに言うな」

「自慢したんです」

引用:詠坂雄二『電気人間の虞』(光文社文庫) p194

余談:詠坂雄二は実在するのか?本作の二重メタ構造について

先程、筆者は詠坂雄二のことを「作者」と表現した。

しかし、この表現は適切ではないかもしれない。

というのも、この詠坂雄二なる人物について作中で語られる情報を読み解いていくと、以下のようになる。

詠坂雄二。職業:小説家。地元である架空の市、遠海(とおみ)市を舞台とした小説ばかりを書いている。

「通りませんよそんなん。あいつの小説知ってます?」

「うーん。人が死ぬようなのはちょっとねぇ」

「遠海市が舞台の話ばっかですよ」

引用:詠坂雄二『電気人間の虞』(光文社文庫) p149

つまり、詠坂雄二は遠海市という "架空の市" に住んでおり、その"架空の市"を舞台とした小説を書いているというのである。

おわかりだろうか?

詠坂雄二なる人物は、一見、作者でありながらも、作中に登場する架空の市に住んでおり、しかも、その架空の市を舞台とした小説を書いているという、まさに二重のメタ構造となっているのだ…!

通常、小説の作者といえば、ペンネームを使っているとはいえ、僕らと同じ現実世界の住人であり、ときおり顔出しをしてメディアに登場しインタビューに答えることさえもある。

しかし、ひるがえって詠坂雄二はどうだろう。

彼は、僕らの住む現実世界には住んでいない。架空の市に住む架空の存在だ。

このように考えていくと、詠坂雄二が作中に登場人物として登場することはなんら不自然ではなくなる。なぜなら、詠坂雄二の存在自体がフィクションなのだから──。

しかも、彼の描く作品全体が、世界観を共有していそうなのも良い。

以下の引用部分で言及されているのは、筆者はまだ未読だが、おそらく前作の小説『遠海事件』のことだと思われる。

「この遠海市って、詠坂の地元でしょう?」

「そのとおり。一昨年、連続首切り殺人があったところだ。ほかにも色々、怪しげな噂に事欠かない土地柄であるらしいがね」

引用:詠坂雄二『電気人間の虞』(光文社文庫) p148

詠坂雄二氏の遠海市を舞台として描かれた作品を読むたびに、読者は、遠海市という架空の市について詳しくなっていく…。まさに詠坂雄二沼にハマりそうだ。

おわりに

と、まあ、詠坂雄二についてのプチ考察のようなものを僭越ながら書いてみたわけだけど、

今なら、綾辻行人氏が帯に書いてたこの文句が腑に落ちる。

「一緒にぜひ、詠坂雄二を語りましょう」

ああ、そういうことか。と。(多分だけどね)

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