みなさんは旅行は好きですか?
大好きという方や、まったく行かないという方もいらっしゃると思います。
ちなみに私は、人生で旅行といって思い浮かぶのは修学旅行くらいでして…。(自分で書いてて悲しくなってきた)
そんな旅行に縁遠い筆者が、読んで沖縄に行ってみたいと思った小説。
それが今回紹介する小説『ホテルジューシー』(著:坂木司)です。もちろん、物語の舞台は沖縄です。
さっそくどんなお話なのか紹介していきましょう。
目次
あらすじ
主人公の名前は柿生浩美(かきおひろみ)。
友人からはヒロちゃんと呼ばれている。
大学生である彼女は、卒業旅行の資金を貯めるべく、沖縄で住み込みのアルバイトをする事に。
季節は夏。バイト先は観光客が多く利用するホテルである。
しかし、そのバイト先で待ち受けていたのは、変わり者のオーナー代理と、個性豊かな従業員たちであった。
生来、生真面目な性格であったヒロちゃんは、そんな個性豊かな人たちや、沖縄独特のゆるい雰囲気に最初は戸惑いつつも、しだいにその生活をいとおしく感じるようになっていく。
そして、本作はミステリーでもあり、ホテルへ訪れる観光客に関する謎が、意外な人物によって明快に解かれていく様子も楽しめる一冊となっている。
見どころ&感想
沖縄独特の雰囲気と主人公ヒロちゃんの組み合わせが絶妙
あらすじでも書きましだが、本作の主人公であるヒロちゃんは、生真面目で正義感の強い女の子として描かれています。
そんなヒロちゃんが、沖縄独特のゆるい感じや、いろんな文化が入り交じっているごちゃまぜ感などに揉まれながら、少しずつ心境に変化が生じて、成長していく様子が面白いと感じました。
そして、そんな主人公と一緒に、沖縄の文化や雰囲気などを読者も一緒に追体験することができるのも本作の魅力です。
筆者は、実際に沖縄へ行ったことはありませんが、本作を読むことで、沖縄を身近に感じられるようになり、沖縄へ行ってみたいと思えたほどです。
作者である坂木司さんは、本作の執筆にあたり、実際に沖縄へ取材旅行へ行かれたとあとがきにありました。
あとがきの一部を引用してみます。
もちろん、実際の沖縄は作中に描かれているほどいいかげんでまっしぐらな場所ではありません。けれど東京とは違うゆるやかさがあるのは事実で、だからこそ私は沖縄が好きなのです。
引用:坂木司『ホテルジューシー』(角川文庫)p355
そして、こうも書かれています。
引用:坂木司『ホテルジューシー』(角川文庫)p357作中でも浩美が何度か首をかしげているように、沖縄は文化や人が混じり合った場所です。それが南国特有のゆるさとあいまって、独特の精神性を産んでいると思います。そしてそのおかげで、沖縄は旅人にとってとても居心地の良い場所になっているのですね。
作者様の沖縄への愛が感じられる文章で、沖縄へ行ってみたくなります。
読み終えるのがさびしい
本作に登場するキャラクター達は、それぞれ魅力的でいきいきと描かれていて、読み進めるうちにそのやり取りがだんだんとクセになってきました。
そして、もうそろそろ読み終えるという頃には、読み終えるのがさびしいと感じている自分がいました。
続編があれば読みたいとも思いましたが、こういうのは丁度いい終わり時ってあるのかなとも思いました。
食事において、もう少し食べたいと思う腹8分ぐらいでやめておくのが良いという話があります。ことわざにもなっていて、「腹八分目に医者いらず」と言うそうです。
なにが言いたいのかというと、小説などの物語においても、もう少し続きが読みたいなというくらいで物語が終わっていたほうが、記憶にも残るし、丁度いい塩梅なのではないかと思ったりもしました。
綺麗に終わっているのに、続編を作るのは野暮というか、そんな感じです。
読み終えるのがさびしいなと感じる物語は、なかなか出会わないので、その意味で自分にとって良い小説に出会えました。
あとがきにて「仕事は精神的な庇護」が印象に残った
文庫版のあとがきの中にあった言葉で印象に残っているものがあります。
それは、以下の部分です。
解説で藤田香織さんがおっしゃっているように、私の作品には特定の職業について書いたものが多く存在します。それはおそらく、仕事というものはある種の拠り所になるからだと思います。
引用:坂木司『ホテルジューシー』(角川文庫)p357
学校に通っている間は、勉強していればいい。そして、卒業したら、働けばいい。「これをやってれば誰からも文句を言われない」という状況は、息苦しさもあるものの、精神的には庇護されているようなものです。
学校に通っている人なら、「なぜ勉強しなければならないのか?」という問いを耳にしたり、自分で思ったりしたことがあるかと思います。
そして、社会人になると「なぜ働かなければならないのか?」と考えたことがある人もいるでしょう。
それらの疑問にたいする1つの答えが「これをやってれば誰からも文句を言われない」、「これさえやってればとりあえずは文句は言われないこと」だと思うと、ストンと腑に落ちた自分がいました。
たしかにそうだなぁと。自分も無職だった経験があるのでよくわかるのですが、会社員だったり学生だったりと、自分が何物かである、何かに属しているという感覚はある種の安心感を与えてくれます。
本作にも無職の人や、旅行代が貯まるまでバイトして、またお金がなくなったらバイトして旅をするといった生活をしている人が登場しますが、本当に人の生き方というのはいろいろだなあと。
そして、本作を読むことで、そういった自分の生き方だったり、人生について考えるきっかけを得ることができたと言ったら少し大げさですが、実りある読書体験でした。
おわりに
本記事を読んで、少しでもこの本を読んでみたいと思ってくれた方がいましたら、大変嬉しく思います。
さて、次は何を読もうか